値上げ交渉で「原価が上がった根拠を」と言われても出せる数字がありません|材料費・労務費・運賃の上昇分を品目別原価と取引先別粗利に落とし、年明けの単価改定前に交渉先の順番を決める

価格交渉原価管理販売管理

9月は中小企業庁の価格交渉促進月間です。年明けの単価改定に向けて値上げを申し入れると、取引先から「原価が上がった根拠を出してください」と返されることがあります。仕入値も人件費も運賃も上がっているのに、どの品目がいくら上がり、どの取引先の粗利がどれだけ減ったのかを示す数字が社内にありません。根拠として何を出せばよいかは、国の指針と法律である程度決まっています。

労務費の根拠は、最低賃金などの公表資料で示せます

価格転嫁率(2026年3月調査)

内閣官房と公正取引委員会の労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針(2023年11月策定、2026年1月改正)は、受注者が労務費の上昇を示す根拠に、最低賃金の上昇率や春季労使交渉の妥結額などの公表資料を用いることとしています。発注者には、公表資料をもとに示された額を合理的な根拠として尊重し、満額を受け入れないときは理由を説明することが求められています。

同じ指針は、自社のコスト構造を開示すると、発注者から原価を査定されて原価低減を求められるおそれがあるとも書いています。取引先に示す根拠と社内で持つ原価は分けてよく、社内の原価は要請額と交渉の順番を決めるために使います。

中小企業庁の2026年3月のフォローアップ調査では、価格転嫁率は54.2%で、コスト要素別では原材料費55.7%、労務費50.0%、エネルギーコスト48.9%でした。上がった費用の半分ほどしか価格に乗っていません。数値は調査の回ごとに変わります。

協議に応じる義務が法律で決まっているのは、一部の取引です

取適法・独占禁止法の確認点

2026年1月に施行された取適法(中小受託取引適正化法)では、コストの上昇などを受けて受注側が価格の協議を求めたのに、発注側が協議に応じなかったり必要な説明をしなかったりして代金を一方的に決めることが、協議に応じない一方的な代金決定として禁止されました。

ただし対象は、製造委託・修理委託・情報成果物作成委託・役務提供委託・特定運送委託に当たり、資本金か従業員数の基準を満たす取引です。公正取引委員会のよくある質問コーナー(取適法)では規格品や標準品の購入は原則として製造委託に当たらないとされており、自社の規格品や仕入れた商品をそのまま売る取引は、原則としてこの規定の外になります。それでも発注側の立場が強ければ、コストの上昇分について協議しないまま価格を据え置くことは独占禁止法上の優越的地位の濫用として問題になるおそれがあると、前述の指針は整理しています。

材料費と運賃は、上がり方の違いを自社のデータで押さえます

材料費と運賃は上がり方が品目や取引先ごとに違うため、費目ごとに、外に示す根拠と社内で持つデータを分けて揃えます。

費目 取引先に示す根拠 社内で持つデータ 上昇分が効く単位
材料費 企業物価指数で該当する品目の推移や、仕入先の値上げ通知 品目ごとの材料の使用量と、仕入単価の推移のデータ 品目
労務費 都道府県別の最低賃金や、春季労使交渉の妥結額の上昇率 品目ごとの作業時間と、1時間あたり人件費のデータ 品目と取引先
運賃 国土交通省が告示する標準的な運賃や、運送会社の運賃改定の通知 取引先ごとの配送便数と、1便あたり運賃のデータ 取引先

日本銀行の企業物価指数は毎月公表され、品目ごとの指数をさかのぼって確認できます。仕入先の値上げ通知は仕入値が相手に伝わりますので、外には指数の推移を示し、通知は社内の計算に使う分け方もできます。国土交通省が2024年3月に告示した新しい標準的な運賃では、運賃水準が8%引き上げられました。最低賃金は毎年改定され、標準的な運賃も見直されることがありますので、その年度の数値を確かめてください。

品目の原価上昇額は、費目ごとの上昇を足し上げて出します。

品目の原価上昇額 = 材料費 × 材料の上昇率 + 作業時間 × 1時間あたり人件費の上昇額

例)材料費600円・作業時間0.1時間の品目で、材料が10%、人件費が1時間100円上がった場合
    600円 × 10% + 0.1時間 × 100円 = 60円 + 10円 = 70円
    販売単価1,000円のままでは、1個あたりの粗利が70円減ります

ここで詰まりやすいのは、品目ごとの作業時間です。誰の何時間がどの案件に乗ったかを日報から拾えれば、労務費の上昇を品目に配れます。

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運賃と小口対応の手間は、取引先ごとの粗利に効きます

便数で変わる運賃の負担増

運賃は会計では販売費の荷造運賃に入ることが多く、品目別の粗利には出てきませんが、影響は取引先ごとに大きく違います。月の売上が同じ100万円でも、月4便で届ける取引先と月22便に分けて届ける取引先では、1便あたり300円上がると月の負担増は1,200円と6,600円になり、5倍以上の差がつきます。小口のピッキングや取引先ごとのラベル貼りも、取引先の側に乗る労務費です。

取引先別の粗利は、品目別の原価で出した粗利を取引先ごとに合計し、その取引先に紐づく運賃と作業の費用を差し引いて、上昇前と上昇後の両方で出します。条件が取引先ごとに違うリベートや販売奨励金も差し引かないと、実際より粗利の大きい取引先に見えます。

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交渉の順番は、粗利の減った額と改定時期の近さで決めます

値上げ交渉の進め方

交渉の順番は、3つの材料で決めます。1つ目は粗利の減少額で、率ではなく額で並べると会社の利益に効く順になります。2つ目は次の単価改定や契約更新の時期です。指針は、発注者が翌年度の予算を策定する前や、定期の価格改定・契約更新に合わせた時期を、申し入れのタイミングの例に挙げています。年明けの改定なら、取引先の社内決裁を見込んで年内の早い時期に申し入れます。3つ目は最後に単価を改定した時期で、指針は、長年価格が据え置かれてきた取引について特に協議が必要だとしています。売上に占める割合が大きい取引先は、失注したときの影響も大きいため、根拠を最も厚く揃えてから臨みます。判断に使う一覧には、次の列を並べます。

取引先 / 直近12か月の売上 / 売上に占める割合
上昇前の粗利 / 上昇後の粗利 / 粗利の減少額 / 上昇後の粗利率
最後に単価を改定した月 / 次の改定・契約更新の時期 / 取適法の対象か
申し入れた日 / 要請した額 / 示した根拠 / 回答と合意した額

最後の行は、協議を求めた記録です。指針は価格交渉の記録を作って双方で保管することを挙げており、取適法のQ&Aも、協議の求めは書面や電子メールなど形に残る方法で行うことが望ましいとしています。指針には、取引先との取引で赤字を解消できる単価を社内で計算して要請額を決め、根拠の一つとして所在する都道府県の最低賃金の上昇率を示した飲食料品卸売業の例も載っています。社内の数字で要請額を決め、外には公表資料を示す進め方です。合意したあとは、新しい単価をどの日付から請求に反映するかまで決めておかないと、10月の価格改定が請求書に反映されないときと同じずれが起きます。

えらびの道は、卸売の受発注・請求や出張販売の管理、介護のシフト管理、ECサイトなどの業務システムをオーダーメイドで開発しています。今回の内容であれば、販売・仕入・出荷のデータと運送会社の請求明細をつないで品目別の原価と取引先別の粗利を出す集計や、上昇率を変えたときの粗利を試算する画面、交渉の記録を取引先ごとに残す仕組みをお手伝いできます。データの可視化やレポートの自動化から、機械学習による予測、リアルタイムなデータ収集の基盤まで対応しています。売上の大きい取引先の分から小さく作り、動かしながら育てる進め方をとっています。

品目別原価と取引先別粗利の集計まで、えらびの道でお手伝いできること

合同会社えらびの道は、中小企業向けのシステム受託開発とデータ活用・DX支援を本業にしています。卸売の受発注・請求、介護のシフト管理、出張販売の管理、EC・決済、業務データの収集と予測基盤など、現場で使う仕組みを自分たちで作ってきました。

値上げ交渉に向けては、品目ごとの材料の使用量と仕入単価、作業時間と人件費、取引先ごとの配送便数と運賃を集め、品目別原価と取引先別粗利を出す仕組みを御社の業務に合わせて作れます。社内の原価は取引先に示す根拠と分けて持ち、単価改定の前に要請額と交渉先の順番を決める材料として使える形にします。

進め方としては、全部を一度に置き換えず、止まると困る1業務から動かして、残りは様子を見ながら移していきます。原価の集計も、売上の大きい取引先や品目から始められます。打ち合わせから開発まで同じ人間が担当するので、どの費目をどの単位で押さえるかといった決めごとも、話を伺った本人が仕組みに反映します。

えらびの道へのご相談は、オンラインで30分、費用はかかりません。どのデータから原価を出せるのか分からない段階でも、お気軽にお声がけください。

よくある質問

値上げ交渉で、取引先に原価の内訳を見せる必要はありますか?

必ずしも必要ありません。労務費については、最低賃金の上昇率や春季労使交渉の妥結額などの公表資料を根拠に使うよう国の指針が示しており、発注者はそれを合理的な根拠として尊重することが求められています。内訳を開示すると原価を査定されるおそれもあるため、社内の原価は要請額を決める材料として使い分けます。

取適法の「協議に応じない一方的な代金決定の禁止」は、どんな取引が対象ですか?

製造委託・修理委託・情報成果物作成委託・役務提供委託・特定運送委託に当たり、資本金か従業員数の基準を満たす取引が対象です。規格品をそのまま売る取引は原則として対象外ですが、発注側の立場が強い場合に協議なく価格を据え置くことは、独占禁止法上の優越的地位の濫用として問題になるおそれがあります。

値上げ交渉は、どの取引先から始めればよいですか?

原価の上昇で粗利が減った額の大きい取引先と、単価改定や契約更新の時期が近い取引先から始めます。運賃や小口対応の手間は取引先ごとに違うため、品目別の原価だけでなく取引先別の粗利を並べてから決めると、交渉の順番と要請額の根拠が揃います。

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